コラム◆IT散歩/第12回:「『黄金比』・・・その神秘」(前編)
「黄金比」・・・
「知っている・聞いたことがある」という方が半数くらいかも知れない。今回「黄金比」を取り上げるにあたり、過去のコラムでも書いてきた「UI/UX雑感」の続編とするかどうか、考えた末に「UI/UX」を外した。
「黄金比」は、デザインの世界に閉じたものではなく、あまりにも神秘的な存在であり魅力的なものだった。前編と後編、2回でその魅力に触れてみたい。
【デザインの黄金比】
黄金比(Golden Ratio)の「比率」は、「1:(1+√5)/2 =1.618… ≒ 5:8」。
一本の線を2つに分割し、短い線に対する長い線の割合が1.618、また、長い線に対して全体の線の割合が1.618となる。
これを黄金比と言い、ギリシャの彫刻家フィデアスの頭文字をとって、Φ(ファイ)で表す。
Φは1.618と小数点3桁で確定するのではなく、ずっと続く無理数である。
プラトンは、「1本の線分をとり、それを等しからざる部分に二分せよ」と言った。
線を二等分したならば、a:b=1:1、a+b:a=2:1で、同じ比率にはならない。しかし、黄金比はこの等式(図内)を成立させる。
プラトンが「線分」で黄金比の問いを投げかけたのは、1.618…が無理数なことを理解していたからであり、幾何学としての表現が可能であるから。
デザインにおいて、黄金比は調和と美しさを与えてくれる。
アテネのパルテノン神殿、エジプトのピラミッド、モナ・リザの顔、パスポート、名刺、Appleのロゴ、ペプシコーラのロゴ、Twitterのロゴなど、様々な建造物やデザインに黄金比は現れる。
また、オードリー・ヘップバーンやアンジェリーナ・ジョリーなど、美しいと言われる顔もそこに黄金比が隠れているとされる。
黄金比は1.618と言った。ではAppleのロゴのどこが黄金比なのか?
ここで、「フィボナッチ数列」が登場する。
フィボナッチ数列とは、
1,1,2,3,5,8,13,21,34,55,89,144,233,377,610,987…と続く数列であり、法則は前の2つの数を足した数の連続である。
Appleのロゴ内に現れるデザイン上の円の大きさは、全て1,2,3,5,8,13といったフィボナッチ数となっている。
なお、Appleのロゴはロブ・ジャノフがフリーハンドで作ったものであり、黄金比を意識していなかったという話もある。たまたまとしても、人が感ずる美しさの裏には、やはり黄金比があるのではないか。
【フィボナッチ数列】
名が残っているレオナルド・フィボナッチは、中世イタリアの数学者。
彼の最も有名な処女作「算盤の書」の冒頭では、このように書かれている。
「九つのインド数字は、9、8、7、6、5、4、3、2、1。
この九つと記号0によって・・・どんな数も以下に明らかにするとおり書き表せる」
これは、当時のローマ数字(Ⅰ、Ⅱ、Ⅲ、Ⅳ、Ⅴ、Ⅵ、Ⅶ、Ⅷ、Ⅸ、Ⅹ、50はL、100はC)よりインド数字が単純で効率的であり、いちばん優れていると考えたため。フィボナッチの考えが正しかったことは、0、1〜9の利用が現在の標準であることが証左だ。
では、フィボナッチ数列と黄金比の関係とは何か。
フィボナッチ数列での連続する2つの比をみてみよう。
1/1=1、2/1=2、3/2=1.5、5/3=1.66666・・・表にしてみた。
89/55でも現れるが、233/144以降の商は1.618…。
n番目のフィボナッチ数をF_nとし、その次をF_(n+1)とすれば、比F_(n+1)/F_n はnが大きくなるにつれΦに近づく。
この性質はドイツの天文学者ヨハネス・ケプラーが発見したと言われている。
もともとフィボナッチ数列は、先ほどの書「算盤の書」において、「ウサギの出生率に関する数学的解法」などの解法であった。
ウサギの出生率
ある男がウサギのつがいを壁で囲まれた場所に放した。 どのつがいも毎月新しいつがいを生み、生まれたつがいは次の月からつがいを生むとすれば、1年間に何対のウサギが生まれるだろうか?
図のウサギのイラストで、大人ウサギの対の数は、1,1,2,3,5、子供ウサギの対の数は、0,1,1,2,3と、まさにフィボナッチ数列となる。
フィボナッチ数列は前2つの数の和として、急速に大きな数となっていく。
5ヶ月目のウサギの対の数が8、2年(24ヶ月)後には75025、3年(36ヶ月)後には24157817になる。
ウサギにしてもネズミにしても、死なずに生み続けていたなら、この世界は大変なことになる。
【白銀比】
前編の最後に、黄金比とともに知られている「白銀比」を紹介する。
白銀比の比率は1:1.414≒1:√2 、日本ではよく使われており大和比という別名もある。
法隆寺、見返り美人図、スカイツリー、ドラえもん、キティちゃん、などに応用されている。もっとも身近なのはコピー用紙。
A1からB3まで全て白銀比の長方形であり、長方形の長辺で2等分すると、相似の長方形が現れる。A3の2等分ならA4、A4の2等分ならA5になる。
今回、興味があった黄金比について書こうと思い立ったが、参考とする文献がなかなか読み進まなかったり、またネット上での黄金比の記事も実に多く、情報によっては否定的なものもあって、時間を要してしまった。
黄金比とフィボナッチ数列、前編はデザインと数学的な部分に言及したが、「神秘的」な面に触れるのは後編としたい。
参考・参照文献
「黄金比はすべてを美しくするか?」(マリオ・リヴィオ、斉藤隆央〔訳〕)ハヤカワ文庫
「黄金比 自然と芸術にひそむもっとも不思議な数の話」(スコット・オルセン、藤田優里子〔訳〕)創元社
「波紋と螺旋とフィボナッチ」(近藤滋)秀潤社
参考・参照記事
http://amanafarm.naganoblog.jp/e2009912.html
文責:永井一美